『人生100年時代の年金戦略』を読んで
現代日本の年金制度の教科書
インデックス投資で有名なブロガー、水瀬ケンイチさんが書評を書いていた一冊。
目次等を見るとなかなか興味を惹かれるタイトルが多かったので私も読んでみた。
一章にでかでかと書かれている「年金は人生のリスクに備えるお得な総合保険」というのはまさに私が考えていた年金制度の特徴と合致していたのが大きい。
一般に年金というと老後にもらえるお金というイメージばかりが強く、現在では労働人口の減少と高齢化でその財源が不足し、支給される年金は将来的に大きく減額されたりあるいはもらえなくなると考える人も多い。そう考えれば年金なんて払わずに自分で貯蓄したり運用したりする方がよっぽどマシだと考える人も当然いる。
だが年金の大きな利点は老後に支給される老齢年金だけでなく、障害等をもったときに支給される障害年金、自分が死んだとき家族(遺族)に支給される遺族年金がある。
老後・障害・不慮の死による遺族に対する保険がパッケージされている保険商品というわけだ。
サラリーマンであれば厚生年金に加入せざるをえないのでここでは取り上げない。
年金問題でターゲットとなるのは自営業やフリーターの層だろう。
このような人たちであっても国民年金に加入する方が得かそうでないか。そこが年金未納の本質的な課題。
だが大原則として年金は保険である。今は健康でも病気や事故で障害を負うようになるかもしれない。ある日突然過労で倒れて小さい子どもを残して自分が死んでしまうかもしれない。これらに対するリスクとして年金を納めておくことは私は愚策だとは思わない。
もちろん年金だけでは絶対的に足りないのは間違いないので民間の保険を利用すべきだが、国民年金より民間の保険を優先するのは保険商品としてはあまり得策とは思えない。そもそも国が崩壊するレベルであれば大概の保険会社はさらにヤバくなるのが道理である。
年金不信の根は深い
基本的にわかりやすく良い本だと思うが、大きな点で一点ひっかかるところがある。
第二章で年金の繰り下げ受給についてふれている章だ。ここは本文を引用しよう。
公的年金の支給開始は原則65歳です。しかし、希望すれば最大60歳まで繰り上げてもらうことができます。
(中略)
気を付けておくべきは、これはあくまで希望者の選択ということです。一律に支給開始年齢を70歳超にすると思い込んで、「また支給開始を遅らされてしまう。やはり年金はだめだ」と勘違いしている人がいるので気を付けましょう。
中略したとこところは繰り上げて受給するより繰り下げて受給する、要は年金をもらう年齢を遅らせればたいていお得だぜ、といった趣旨。
で、支給開始年齢を選べるのも本当。
だがこの文脈だと支給開始年齢を60歳~70歳超まで選択できるようになるだけで原則の支給開始年齢が上がることはないみたいのようにとらえられてしまわないだろうか。
当然そんなことはない。
実際、年金の原則支給開始年齢は昔は60歳でしたね。社会状況にあわせて原則の支給開始年齢が引き上げられた前例があるわけだ。
筆者はあくまで現行の年金制度を基にして本書を書いているだろうから強く言えないが、そもそも原則支給開始年齢が引き上げられたらどうなるのかということに回答はおろか問題提起すら本書内ではしていないのである。
で、大多数の国民の年金不信の根源はここなわけよ。だって日本で多いのって厚生年金に加入しているサラリーマンじゃん。厚生年金と国民年金との兼ね合いで老後どのくらいのお金がもらえるのかって一番不安に思うことなわけじゃん。将来もらえる年金が目減りするのはわかるよ。だけどそもそもそれ本当に少額ながらいつからもらえるの?っていう話。
年金は支給します。ただし原則となる支給開始年齢は100歳からです。
こんな状況になっても制度としては崩壊してないわけだ。意味があるかは別にして。
国民年金に対する不安・不信感は「いくらもらえるか」じゃなくて「いつもらえるか」にシフトしてるわけよ。
冒頭のタイトルで書いた通り、現行の年金制度について非常にわかりやすくまとまっている良くできた年金の教科書。
ただ「戦略」と言われると数年後、数十年後を見通した内容になっていないというのが私の率直な感想。
保険は損するもの
ここからはさらに蛇足。
保険はたいていの場合、払い損になるものと私は思っている。でなければあんなに多くの保険会社なんて商売が成立しない。「死差益」とかいう言葉もあるくらいだからな。
それでも私たちが保険を頼るのは「万が一」に備えてだ。「万が一」の状況に陥ったときに最大限の備えをしておく。これは普通のリスク感覚をもった人間ならとるべくしてとる行動だ。
そしてその「万が一」の状況を規約等でガチガチに固めるわけだ。例えば生命保険の適用条件に自殺が適用対象外であれば、被保険者がどれだけ多額の生命保険をかけていたとしてもびた一文支払われないだろう。
保険商品にとって支給条件はかなり重要だ。この支給条件を一方的に変更されることはもはや詐欺といってもいい。
私は国民年金を保険商品といっている。しかしこの年金制度は良きにつれ悪気につれ一方的な制度変更が多発している。
だから私はあえて言おう。
国民年金は詐欺である、と。